欧州の日本企業には「お局様」と「老中様」が多い?

ビジネスにおいて使われる「お局」と「老中」(男性に関しては他の言葉が使われることもあります)という言葉は、勤続年数が長く社内に深いネットワークがある一方、同僚の士気に悪影響を与える人のことを指すことは、ご存知かもしれません。彼らは、不機嫌でいじめが蔓延り、噂話が飛び交う文化を生み出すことによって、オフィスを感情的に支配します。彼らがいる職場では、オープンで信頼に基づいた文化は消え、疑念的、防御的な文化になります。同僚は、仕事を進めるために、恐る恐る「お局様」と「老中様」にお伺いを立て、「お局様」と「老中様」が気に入らなかったり気分が乗らなかったりした場合には、仕事が停止します。

「お局」と「老中」は、どちらも江戸時代の将軍下の役職に由来する言葉で、歴史的にネガティブな意味はありませんでした。情報やネットワークを利用して、裏で権力を持ったという背景から、オフィスでこのような使われ方をするようになったのでしょう。

私が欧州の日系企業のCEOや社長と、「お局様」と「老中様」がいかに高い確率で日系企業に存在するか、その弊害がいかに大きいかについての話をすると、喜ばれます。毎日、身を以て体験しているのです。

多くの日系企業では、日本人駐在員が重要な役職についており、特に小さい事業所では、「お局様」と「老中様」が自分達を「重石」のような重要な存在と認識しています。彼らのリーダー、つまり駐在員は3、4年で日本に帰国しますが、自分達はビジネスを守るために常にそこにいるからです。新しい駐在員は、礼儀正しく、「お局様」と「老中様」の理解するバージョンや、偏見も時に含まれた情報から、現地事業をまず学びます。

それに加えて、人事とマネージャーの役割が日本と欧州では異なります。日本の大企業では、中央集権化された人事部門が、採用、報酬、解雇(人員削減以外では滅多に起こりませんが)、そして人材マネジメントをコントロールしています。欧州の日本企業は、日本の大企業の子会社であることが多いので、結果、日本からの駐在員は、すべてに責任を負う欧州のマネージャーとは異なり、業績マネジメントの役割や、問題のある個人に対して適切なアクションを取る責任に慣れていない場合が多いのです。

どのような組織にも難しい社員はいるでしょう。しかし、このような環境下で、「お局様」と「老中様」は繁栄します。彼らは、情報や仕事を囲い込んだりするかもしれません。情報は権力(Information is power)です。彼らは、「あなたは勤続が長くないので問題を理解することができない」と見下すものの、詳しく聞こうとすると、具体的には説明できないかもしれません。彼らは事実に基づいた会話よりも、心理的な操作に陥りがちです。彼らは自分の業績について説明責任を果たさないかもしれません。彼らのリーダーは恐らく何年も要求してこなかったのでしょう。

「お局様」と「老中様」を組織に持つことは、欧州の小規模組織にとって深刻な結果をもたらします。他に仕事を見つけることが容易である優秀な社員は(日本では違う状況でしょうが)、彼らの業績がフェアに評価される期待が低いこと、「お局様」と「老中様」に対処するリーダーへの不信感、そして社内政治に疲れて、組織にとどまらないでしょう。会社としては、勤続が長く業績の良い人が欲しいわけで、勤続が長く他の社員の足を引っ張る業績の悪い人が欲しいわけではありません。

それでは、どのように「お局様」と「老中様」に対処すればいいでしょうか。

  1. 特定する:組織やビジネスを傷つけている行動を特定します
  1. コミュニケーションをとる:別室で、彼らの行動がどのように同僚や組織に影響しているか、彼らの上司としてどのような行動を期待しているかを説明し、改善策とスケジュールを提示し、合意します
  1. 改善する機会を与える:合意した計画を守り、予定した時に行動をレビューします
  1. 行動を起こす:合意したスケジュールまでに改善が見られなかった場合には、解雇を検討する必要があるかもしれません。これは、リーダーの仕事の一部です。残念に思うかもしれませんが、彼らは現在の環境下で「お局様」と「老中様」ですが、異なる環境下では違うかもしれず、そこで成功するかもしれないのです。

「お局様」と「老中様」に対処する時、彼らの行動を無意識に強化しないように気をつける必要があります。例えば、面倒だからと、彼らをプロジェクトに参画させる(もしくは参画させない)などです。いくつかの異なる組織で、これが実際に起こるのを今までに何度か目撃してきました。そうではなく、プロジェクトリーダーは、メンバーを選ぶ際に、プロジェクトの成功に必要な専門性やコンピタンシーを、客観的に評価して判断する必要があります。

部下を持つ駐在員ポジションには、すでに欧州スタイルのリーダーシップの経験がある人を選抜することをお勧めします。欧州のリーダーにとってでさえも、これを習得するには時間がかかるからです。しかし、そうでなくとも、駐在員はHRマネジメントスキルの重要性を認識し、研修を受けたり、何らかのサポートシステムを作ることが求められるでしょう。オブザーバーのような、特別な役職に駐在員を配置することも、一つの解決策かもしれません。いくつかの会社では、この構造をすでに適用して成功しています。そうすれば駐在員は、異なる視点を提供したり、日本本社とのコミュニケーションを管理することで、欧州における部下の指導の仕方を学ぶことに追われるよりも、迅速に付加価値を提供することができます。

もし海外事業の成功にとって、優れた現地人材が重要なのであれば、そのような優れた現地人材が最も能力を発揮できる環境はどのようなものなのか、定義して実現する必要があるでしょう。

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