EU国民投票:EUについて学んだこと

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今日のファイナンシャル・タイムズの世論調査によると、残留、離脱とも44%でした。ヴァージングループ創業者のリチャード・ブランソン卿は、国民投票でEU離脱となることを大変危惧し、投票日の3日前となる昨日、独自に残留キャンペーンを開始しました。同時に、離脱派はテレビのコマーシャルで、EUに支払っているのは無駄金で、より良い国民医療サービスを作るために取り返すべきだと訴えています。このパニックと国民を不安に陥れる手法は、2014年のスコットランド独立国民投票の時と同じです。

デービット・キャメロン首相は、EU懐疑派の同僚政治家からのプレッシャーもあり、政治的な理由でこの国民投票の実施を決定しました。しかし、「分析し決めるのは政府の仕事ではないのか?」と私は考えてしまうのです。選挙日が決まってから最近まで、私は人々が、イギリスにとって残留と離脱どちらがいいのかわからないと言うのを耳にしてきました。その後、ある人はEUの事を学び自分で分析したかもしれませんし、ある人は各キャンペーンがどのように実施されているかで決めたかもしれません。またある人は誰がどのキャンペーンをサポートしているかで決めたかもしれませんし(立場を変えた政治家もいます)、ある人は直感で決めたかもしれません。イギリスはどうすれば、6月23日の結果を本当にイギリスにとって良いものにできるでしょうか。

日本のパスポート保持者であるため、私には今週のEU国民投票の選挙権がありません。イギリスのパスポートに申請はできますが、日本政府は二重国籍を認めておらず、私には日本人であることを止める心構えもできていません。しかしながら、イギリスに10年住み、夫がアイルランド人である(イギリスに住むアイルランド人には選挙権があります)ことから、国民投票結果は私にも大きな影響がありますので、私にも選挙権があると想像して、デービッド・チャーターの『ヨーロッパ残留か離脱かー知らなければならないすべて』という本を読むことにしました。著者は5年間タイムズ紙の欧州特派員でした。私も過去に仕事でいくつか欧州ポリシーに関する調査をしましたが、この本は私の立場を決めるのにとても有用でした。私が学んだ幾つかの点をシェアしたいと思います:

  • ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタインはEUメンバーではないが、欧州経済地域(EEA)に加盟しているので単一市場へアクセスでき、資本、製品、サービス、人(これらは1セット)の自由移動に関する法律を遵守しなければならない。しかし、単一市場に関するルール作りには参画できなく、これはイギリスがEU離脱しながらEUとの貿易を維持したい場合、特にイギリスの金融サービスにとって好ましくない。
  • イギリスは欧州において、金融サービスで70%の市場シェアを持ち、これはイギリスのGDPの7.9%に相当する。
  • スイスは単一市場には属していないが、製品と人の自由移動に関する協定でEUと合意している。また、自国の議会を通過させた後、多くのEU法を自主的に採用している。
  • ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、スイスは、すべてシェンゲン協定加盟国で、域内移動に関して国境コントロールがない(これは短期訪問ビザで、就労ビザではない)。イギリスとアイルランドのみが非加盟を交渉した。しかしながら、イギリスがEUを離脱すれば、EUは全シェンゲン地域へのアクセスか全くアクセス無しかというアプローチを取る可能性があり、イギリスは現在の国境コントロールも失うかもしれない。
  • 300万人のEU出身市民がイギリスに住んでおり、スペインに100万人を含め、220万人のイギリス人が他のEU諸国に住んでいる。イギリスがEUを離脱すれば、これらの人々はビザが必要になる可能性が高い。
  • 法人税は、イギリス20%(2020年までに18%)、ドイツ29.7%、フランス33.3%。
  • イギリスのEUへの支払いは、週3億5,000万ポンドで、この数字は離脱派キャンペーンでよく使われる数字だが、これは、マーガレット・サッチャー前首相が交渉し勝ち取った割引と、イギリスがEUから受け取っている公共部門財政支援を考慮に入れる前の数字である。従って、支払いは上記の数字の半分以下である、週1億6,300万ポンドである。加えて、イギリスのプライベートセクターは、特に研究のためにEUから財政支援を受けており、これを考慮に入れると、その他の要素は考慮しなくても週1億3,600万ポンドになる。EUメンバー以外の例えばノルウェーやスイスもEUに支払いを行っており、もしイギリスが離脱した場合は、現在の総支払額の8分の1の金額になると概算される。
  • 6代目ウェストミンスター公爵は、2011年に、所有する農場に関して約75万ポンドをEU助成金として受け取った。イギリス王室や他の公爵も同様にしてEU助成金を受け取っている。
  • 毎月1週間、戦後の和解を記憶にとどめるため、欧州議会はブリュッセルからドイツ語を話すフランスの街ストラスブールへ高額をかけて移動する。
  • 2015年に、EUは1,410億ユーロを、そしてイギリスは7,360億ポンドを使った。EU予算は比較的小さい。
  • EUはイギリスの最大の貿易パートナーであり、2014年の輸出の44.6%、輸入の53.2%だった。貿易がEUに偏りすぎていると懸念している人もいる。
  • 日本企業である日産のサンダーランド工場は、過去17年間イギリス最大の自動車工場で、ここで作られた自動車の57%は欧州に輸出されている。しかしながら、ドイツはさらに多くの自動車をイギリスに輸出している。
  • EUが韓国との自由貿易協定を締結した間に、ニュージーランドは中国、マレーシア、タイを含む8つの貿易協定を締結した。

もしイギリスがEUを離脱した場合、EEAは実行可能な選択肢であるとは私には思えません。そうなると、残るはEUや世界各国との関係を、それぞれの分野で詳細に亘って交渉するスイスモデルです。これは気の遠くなるようなプロセスで、長期間の不確定要素となり、イギリスのビジネスにとって良くありません。スコットランドは再度、独立国民投票を実施するかもしれません。私の印象では、イギリスの要望をEU内で交渉するのがより効果的でリーズナブルです。イギリスは過去何年もそうしてきており、私の目には、イギリスの主権はEUに渡していないように映っています。

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