多くの日本人は、職場におけるイギリスの男女格差は小さいという印象を持つかもしれません。しかし、現実はイギリス政府の望む形からは程遠く、政府は格差を早急に減らす努力をしてきました。
デイビス卿の「女性役員調査報告書(Women on Boards Review)」が初めて2011年に発行されてから4年が経ち、同報告書の2015年版では、FTSE100企業で役員が男性のみの企業が、遂に消えたことが報告されました。FTSE100企業の役員の25%を女性にするという政府目標も、4年前の数字を2倍にして達成しました。
この取り組みは、イギリス政府と企業が大きな誇りを持っている「任意」によるものです。この誇りは、先週末に結果が出たイギリスのEU交渉にも垣間見ることができます。イギリスの人々は、ブリュッセルから強いられた政策や指令が好きではないのです。デイビス卿の報告書の重要なメッセージのひとつは、「任意の取り組みが機能するということをEUに示そう」でした。私はEUクオータ制導入の支持者ですが、イギリスの任意アプローチも、デイビス卿と彼のチームの強いリーダーシップにより、今のところ成功しています。しかし、EUは40%(非業務執行役員)のクオータを提案していることから、取り組みは続ける必要があります。
日本は、自国の驚異的に低い2.8%(2015、東洋経済)の女性役員を増加するために、イギリスの取り組みから何が学べるでしょうか。私は、より明らかな「リーダーシップ」や「コミットメント」の他に、以下の3点を挙げたいと思います。
1)ステークホルダーとの協業
イギリス政府は、企業と強い協業関係を構築するために努力しています。企業のCEOと話をし、直接彼らから政策支援の約束を取り付け、そして彼らの属するグループにも影響を与えさせます。イギリス政府はさらに、女性の人材不足という企業の不安を払拭するために、幹部ヘッドハンターコミュニティと協業しました。結果はどうでしょうか。なんと4年間で478人もの女性が新たにFTSE350企業の役員に任命されたのです。すべてのステークホルダーとの協業は、成功の重要な要素です。
2)政策の宣伝とマーケティング
イギリス政府はウェブサイトで、政策、背景、そして誰と協業しているかを、詳細に説明したプレスリリースを頻繁に発行しています。企業の政策支援者は、これらのプレスリリースの中で、彼ら自身のコメントとともに紹介され、広く認知されます。また、デイビス報告書自体の継続した宣伝も、政策を推進するために非常に重要です。この報告書には、すべての重要な数字、分析、メッセージが簡潔に一つの文書にまとめられており、人事の専門家、そしてそれ以外の人々にとって必ず読まなければいけない報告書となりました。日本の内閣府男女共同参画局のウェブサイトを見ると、個々の報告書が多く存在しており、何を達成しようとしているのか理解するのが困難で、時間もかかります。これは、メッセージを伝えるために効果的ではありません。政策マーケティングは、最大限の結果を出すために必要不可欠なものです。日本とイギリスの報告書デザインを比較すると違いがよくわかります。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/4th/pdf/kihon_houshin.pdf & https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/415454/bis-15-134-women-on-boards-2015-report.pdf(英語)
3)政策評価
日本政府は、イギリス政府の定期的な評価とマイルストーン管理プロセスからも学ぶことができます。デイビス報告書は毎年発行され、目標に対する進捗と指標を分析しています。そして、1年間の小さな成功を讃え、コミットメントを新たにし、最終的な目標に到達するための次のステップを提示しています。ここでもまた、ステークホルダーが参画する機会があり、彼らのフィードバックと意見を入手します。最後に、報告書は優れたデザインであり、広く社会で読まれるように公表されるべきです。
イギリスでは、250人以上の従業員を持つ企業が、報酬の男女差報告書を公表しなければならないという規制が、2016年10月から施行される予定です。政府平等局は、このほどこの規制案を発表しました。該当企業は、自社ウェブサイトと政府関係ウェブサイトの両方に英語で、まずは2017年4月から2018年4月までの1年間の報酬男女差の平均値と中央値、ボーナスの差、報酬分布を含む報告書を公表する必要があります。この規制の導入により、男女格差の縮小という政府目標により近づくと期待されています。
日本では、女性が男性と同等に働けないという事実を説明するために、長時間勤務がよく登場します。しかし、イギリスの実働週勤務時間は、国統計によると、フルタイムで男性40時間、女性35時間、全平均38時間です。では、なぜイギリスでは男女平等を推進するのに、そんなに努力が必要なのでしょうか。これは、より広いビジネス文化と現体制が関係しているからでしょう。イギリスではこの問題に、まず役員、つまり組織のトップから取り組みました。これは、組織の中でより大きなビジネス文化的インパクトを創出し、女性のロールモデルを提供するためですが、日本の政策では今のところ、ここにはあまり注力していないようです。いずれにせよ、日本企業は個別に、女性役員の登用を増やしてきています。日本は、男女格差の縮小を早急に実現するために、最も効果的なアプローチの選択肢を、今一度研究する必要があると思います。