先週、英タイムズ紙で米国の公共政策専門家アンマリー・スローター(Anne-Marie Slaughter)のインタビュー記事を読みました。彼女は、2009年にヒラリー・クリントン国務長官の下で政策課の初の女性ダイレクターとなり、ご主人に2人の息子の子育てを任せ、ワシントンと自宅のあるプリンストンを週末ごとに行き来する生活をしていました。しかし2011年に昇進をオファーされた時、キャリア上の大きなチャンスを逃すことに大きく迷いながらも、『愛と責任のために』、そして難しい時期の『ティーンエイジの息子の側にいるために』断り、家に帰る決断をします。そして、よりフレクシブルなアカデミックの世界に戻りました。
彼女は翌年の2012年に、「なぜ女性はまだすべてを得ることができないのか(”Why Women Still Can’t Have It All”)」という記事をある雑誌に発表して、大きな反響を呼びました。アンマリーは、国務省に務めるまでアカデミックな世界で成功していたため、多くの女性が通常の職場で対面する問題を、特に大きな違和感として感じたのでしょう。彼女ほどのキャリアを持つ女性がそんなことを言ったら若い女性が働く意欲を失くす(アンマリーは現在57歳)、働く女性を裏切った、という声もありました。そしてそれから3年経ったこのほど、「決着の着いていない問題:女性、男性、仕事、家族(”Unfinished Business: Women Men Work Family”)」という本を出版しました。このなかで、今までの「女性の社会進出」という動きに代わる「男性の家庭進出」という動きの重要性を述べています。
現在要職に就いていらっしゃる先輩女性は、恐らく多くは、「やれば出来る!」と男性よりも仕事をして苦労して、あるときは家庭を犠牲にして経験を積んだ、スーパーウーマンなのでしょう。でも、今の時代に必要なのは、もっと広範囲の人(男性も女性も)が自分に合った働き方ができる、そしてそれが長期に亘って持続可能な社会です。結婚していてもしていなくても、子供がいてもいなくても、介護があってもなくても、子供が小さくても大きくても。
人の人生は待ってくれません。今、働きたくても辞めなければならない女性がいます。私は、女性は現在も様々な可能性を模索することができるとある程度信じていますが、それでも、人事部は、人の人生がかかっていることに、どの程度その責任を感じているでしょう。5年後、10年後までには、などと言っている場合ではないのではないでしょうか。私はと言えば、日本にいることがいろいろと不安になってキャリアの途中でイギリスに来ましたが、人事コンサルタントとして非常に焦りを感じます。イギリスは欧州のなかでは大陸ほどではないにしても、米国や日本よりは家族など社会的な価値を重視する文化です。いろいろと学ぶところがありましたが、それをどう伝えることができるでしょうか。
アンマリーは、TED talkで『今、多くの女性は男性よりも選択肢が多い。女性は働き手になれ、家族の世話ができ、そしてその両方の組み合わせができる』と言っています。日本ではもっとそうかもしれません。今度は男性の番です。そして私もアンマリーと同じく、これが、ある程度までいった女性の社会的地位を次のステージまで一気に押し上げる力になると思っています。
だからこそ、ここで女性は、家庭で男性をサポートするスキルを持つ必要があります。アンマリーはタイムズ紙のインタビューで、女性に重要なメッセージを送っています。『あなたの男性上司が、私は男性なので生物学的に仕事が良くできるが、あなたも私が十分マイクロマネジメントをすればできると信じている、とあなたに言ったと想像してください。あなたは裁判所に訴えるでしょう。でも、私達女性は、このように家庭でパートナーを扱っているのです。リストを作り、いちいち指図をし、チェックする。』これ本当にそうです。反省。
女性も、職場の優れたマネージャーであればそうするように、男性を信じて、家庭のことを任せることが必要なのかもしれません。そうすれば男性ももっと自信を持って、家庭進出できるでしょう。育メンも増えるのではないでしょうか。家庭でも、フレクシブルな社会実現に貢献できることがあるようです。